エロスの巨匠・団鬼六が明かす「倒錯の性と美」
◇ヘンリーミラーや団鬼六先生の官能小説を片っ端から読んでたんです。(黄金咲)◇ ──映画『花と蛇』の大ヒット、まずはおめでとうございます。ところで先生『花と蛇』の映画化はこれで何本目かご存知ですか? 団鬼六(以下、団) いやぁ、その辺のところはサッパリ憶えてないんですわ。5、6本くらいやったかな? ──今回のPART2を入れると、実に7本目です。詳しく調べた訳ではありませんが、おそらく一つの小説の映画化本数としてはギネスブックに掲載されてもおかしくないほどの作品ですよ。今度きちんと調べておこうかな(笑) 黄金咲ちひろ(以下、黄金) あたし、映画化された作品はほとんど拝見してます! 団:あなたおいくつ? 黄金:ことし26歳になりました! 団:26歳!? というと僕が『花と蛇』を奇譚クラブに連載した頃は、あなたはこの世に影も形もなかった訳やね!それがよりによって、あんなポルノ小説の映画に興味を持ったの? 黄金:あたし、中学の頃から俗に言う超文学少女で、トルストイやヘミングウェーといった世界の名作から、ヘンリー・ミラーや団鬼六先生の『花と蛇』のような官能小説を片っ端から読んでたんです。 団:トルストイとわたしの変態小説と一緒に読んでたの?それは光栄というか、アホちゃうか(爆笑) 黄金:はい、真性のアホ女学生でした(大爆笑)。それで映画化された作品を成人してから、こちょこちょとビデオ屋で借りてはとっかえひっかえ……。 ──ところで12〜3歳の美少女までトリコにした『花と蛇』を書いた当時のいきさつを少々。 団:たしか昭和38年頃やったかな。僕が32、3歳の頃でした。当時、訳あって三浦三崎の中学でしがない英語教師をやってて。都落ちのウツウツとした気持ちを晴らすために、職員室や自習時間を利用してはコツコツ書いてましたね。家で書いていたら、新婚早々の女房が「あんた、何隠れて書いてるの?」って覗きに来よるし(笑)。 ──その頃って、たしかSM小説ってジャンルはなかった? 団:そうそう、只の変態小説、倒錯小説ですわ。 黄金:どんなお気持ちで書かれてたんですか? 団:たとえばね、あなたみたいな美女と会うでしょ。しかし、こちらは金も権力もない。口説いてもなかなかモノにならんわな。いわゆる高嶺の花というアレです。それを自分のモノにするのは空想の世界しかない訳ですな。言葉巧みに罠にハメて、のっぴきならない状況に追い込んでは痴態の限りを尽くすという一種の強姦願望やね。 黄金:だから登場する主人公は遠山静子夫人のような楚々とした令夫人になるんですね。凛として高貴な女……。 団:そうそう、汚い穴の開いたジーパン娘とか、ズベ公(編集部注・アバズレ娘)はアカンアカン。 ──男の切なる願望ですね! 団:その通りです。逆にヤクザの女親分みたいなメリハリのある強い女性でも、裸になって身も世もない姿にして、自尊心を奪い尽くす瞬間に、最高のエロチズムを感じるんですな、僕の場合。 黄金:それで『緋桜のお竜』とか『紅姉妹』といった鉄火場の姉御が主人公になるんですね。 団:そやそや。しかしあなたその歳でよく読んでるね? 黄金:はい、15歳から団先生は憧れの小説家NO.1でしたから(笑)。 ──『花と蛇』を初めてとして団鬼六のSM小説がいまだに読者に読み継がれる最大の理由って? 団:女の恥じらいとためらいですよ。羞恥心やね。セックスそのものがそうでしょ?恥ずかしい恥ずかしいいいながら、いつのまにかエクスタシーに昇りつめていく。女性にイヤイヤされるほど男という生物は好色になり、精力的にもなるんですね。 ◇『紅姉妹』あれが最後の監督作品。2000万円も金がかかり過ぎた…(団)◇ 黄金:この前、女性限定の上映会で『花と蛇』の試写会に行ったんです。杉本彩さんとおすぎさんのトークショーがあったりして、そうそう緊縛師の有末剛さんの緊縛ショーもありました。女性限定ということで、まさに女性が満員で凄い盛り上がりでしたね。 団:へぇー、そうなの! 黄金:大っぴらには口にしないけど、わたしたち女性も内心いじめられたい、恥ずかしめられたいって願望がありますね。ただ、自分の口からはそれを言葉にできないだけで。 団:そういえばオタクやなかった?女性向のアダルトグッズの情報誌を創刊したのって? ──はい、この『R18』の姉妹誌で『シエスタ』ですね。 団:ピンク色とか紫の大人のオモチャが綺麗にデザインされてて。あれ良いアイデアだと思ってね。女性が性を堂々と語れる時代じゃないとアカンのですよ。僕自身こんな時代が来るとは思わなかったけどね。 ──女性が大っぴらにセックスの楽しみ方をカミングアウトするようになった風潮と、先生のエロチズム観は矛盾しませんか? 団:矛盾はしません。本来、女性のほうが本質的にベッドでは好色なんです。それをモラルとか社会常識が抑圧してきた訳ですね。高貴な女性や知的な女性ほど、卑しい男や言葉に陶酔させられるし、暴力的セックスにエロチズムを感じるものでして。 黄金:『チャタレー夫人の恋人』! 団:そうそう、それにしてもあなたはよく理解できてるね。僕の最後の愛人にしたげます! 黄金:はい、最後の愛人にならさせていただきます!(大爆笑) ──ところで先生が最近自ら脚本・監督をされた『紅姉妹』ですが、その辺詳しくお聞かせください。 団:うん、愛染恭子と小川美那子主演のアレね。僕が自分で作るSM映画は、逆さ吊りや毛を剃ったり浣腸したりするシーンは出てこないんです。あくまでソフトに叙情的にやりますから。僕も歳が歳やから、おそらくあれが最後の監督作品ですね。小川美那子の気品と愛染恭子のエロスが作品のすべてです。 ──撮り終えてみての感想は? 団:最大の欠点は金がかかり過ぎたことやな(笑)。一般作なみの2000万も使って集金できたのは1500万。まだ500万返ってきませんわ(笑)。 黄金:どの部分で一番お金がかかりました? 団:遊びの部分やな。飲み食い(大爆笑)あれさえなければ楽に元は取れてました。僕の監督としての遺作になるかも知れないから、是非見てください。 ◇『肉の顔役』一番思い入れのある小説。僕自身、究極の変態小説やと思う(団)◇ 黄金:先生が書かれた官能小説の中で、まだ映画化されていなくて、これだけは映画化したいという作品は? 団:『肉の顔役』やね。あれは僕が一番思い入れのある小説でしてね。僕自身、究極の変態小説やと思っています。あなた、よかったら出演してみない? 黄金:是非是非!私財を投げ打ってでも出させてください!(笑)先生お約束ですよ! 団:ええとも、必ず出てもらいます。どんな役柄がええの? 黄金:『花と蛇』に出てくるシーンで「まさかあなたでもお尻から花なんか咲かせないわよね」って台詞があるんですね。あんなドロドロとした女の業のかたまりのような役があれば最高です!女が女をいたぶり、又、その女が男にいたぶられるような。 団:そんな役あったかな? 黄金:あららら……。 団:いや、そんなら特別に役を作っときましょう(笑) 黄金:嬉しい!一生ついていきます(大爆笑) スーパーカタログ 2005 AUTUMN VOL.48 巻頭インタビューより
PROFILE 団 鬼六●だんおにろく 1957年、『親子丼』で文藝春秋オール新人杯に入選し本格的に作家の道へ。『花と蛇』や『夕顔夫人』『黒薔薇夫人』などの傑作を生み出し、嗜虐的官能小説の第一人者となる。
PROFILE 黄金咲ちひろ●こがねざきちひろ 1978年生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、2001年に合資会社「黄金の夜明」を起業。「手に職を持った本当のマルチタレント」としてスカパーやVシネなどで活躍中。